著者は「わたしの家では、牧野富太郎博士を、いつも牧野先生と、父の小学校時代の先生として呼んでいた」と書いています。
小説は、28歳の富太郎が大学への行き帰りに見かけて心ひかれた菓子屋の寿衛子と言葉を交わすところから始まります。
富太郎はすでに従妹の牧野猶(なお)と結婚しており実家の醸り酒屋・岸屋を任せていた。
そんなことはかまわず富太郎は寿衛子と所帯を持ち、そこから寿衛子の貧窮の苦労が始まる。
彼は、植物に対する火のような情熱を持っているが、実生活では無能な浪費家だった。
膨大な研究費を貢いだ岸屋は破産、猶はながく勤めた番頭と結婚する。
二十歳にもならぬ寿衛子は毎年のように生まれる子供の世話に加えて日々訪れる借金取りへ応対し、出かけて家に帰らぬ富太郎に悲痛な手紙を送ることも度々だった。
しかしそんな富太郎には、何度も助け主が現れる不思議な人徳があった。
寿衛子は55歳で亡くなるが、富太郎は植物学で多大な功績をあげ94歳の天寿を全うした。
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