和歌や俳句の前に、前書きと云うものが付いている場合があります。これは、句が作られた状況などを説明するものですが、面白い例がありました。
長谷川櫂さんの「俳句的生活」と云う本の中で前書きの付いた句について書かれたところです。
翡翠(かわせみ)のいま飛び去りしばかりなり
長谷川 櫂
これだけなら、自然描写の句で、カワセミが飛び立った一瞬を切り取った句ですが・・
長谷川さんは、「翡翠を描きし九谷の皿頼まれしに鶴の皿贖うて(あがのうて)帰る。妻に問われて」と云う前書きをつけました。と云うのは、金沢に出かけた長谷川さんは奥さんに翡翠(かわせみ)の絵柄の皿を頼まれたのですが、気に入る物がなく、仕方なく鶴の絵柄の皿を買って帰ったのを奥さんに訝られたからです。
この前書きが付くと、句の意味は、奥さんに答えて「いや確かに翡翠が描いてある皿を買って来たんだよ。だけど、その翡翠はちょうど今飛び去ってしまったのだよ」と云う言い訳に変わってしまいます。
同じ句でも、前書きが付くと付かないでは、全く違うものになると云う面白い例でした。
0 件のコメント:
コメントを投稿